モンゴル国のカザフ人は、住居や衣服など身の回りに装飾を施す習慣があります。彼らがものに装飾を施す際に用いる方法は、「刺繍」、「縫い付け」、「織り」、「編み物」など多様に存在しますが、今回から連続して「刺繍技術」について焦点を当てて書いてみようと思います。
 
尚、ここのblogで書くものはあくまでもモンゴル国のカザフ人が用いる刺繍技法で、後述しますがカザフスタンのカザフ人が行う刺繍とは少し様子が異なっています。モンゴル国の中に居住するカザフ人の間で受け継がれてきた刺繍としてご覧ください。

カザフ語で刺繍のことを「ケステ」と言います。
一言で「ケステ」と言っても、「ケステ」の中にも色々種類が存在します。
まず、用いる針によって大きく3つに大別されます。
 
1つ目は、「ビズ・ケステ」と呼ばれるもの。
ビズとは「かぎ針」という意味で、かぎ針刺繍と訳すことができます。

使用しているかぎ針の先端

かぎ針刺繍を行っている様子。
 
カザフ人が「カザフの伝統的な手芸技法である」と語り、特に住居内部に飾る刺繍壁掛け布”トゥス・キーズ”を作るときなどに使用する技法です。
かぎ針刺繍については、あとでたっぷり後述することにします。


2つ目は、「コル・ケステ」と呼ばれるもの。
コルとは「手」という意味で、手刺繍と訳すことができますが、
一般に刺繍針を用いて行うことをまとめてコル・ケステと言います。
 
コル・ケステ技法によって作られた装飾品
 
コル・ケステは枕カバーやベッド周りの装飾など住居内部の小さな装飾品を作る時に用いられたり、布にアップリケを施す時などに使用します。
昔から使われていた技法と呼ばれているものもあれば、社会主義の影響で学校教育の一貫として人々の間に伝わった刺繍技法もあります。 
コル・ケステについても、今ここで触れるとごちゃごちゃしてしまうので、縫い目ごとに次回以降に後述することにします。

そして3つ目は、「シュプレズ・ケステ」と呼ばれるもの。
シュプレズは・・・元々ロシア語?が訛った言葉なのでしょうか?
「注射」という意味の言葉で、直訳してしまうと注射刺繍となってしまいますが、
あまりにセンスの無い訳仕方ですよね・・・。没!

うーん、日本にこういう刺繍ってあるんだろうか。
恐らく、「文化刺繍」によーく似てると思うんですが、私は文化刺繍をやったことがないので確証がもてないのです。
どなたか「これやったことあるよー!」という方いらっしゃいましたら、どうか教えてください・・・。

追記@2015.07.26
文化刺繍をしている動画を発見しました!
https://www.youtube.com/watch?v=o_GUc18iNIs

これを見る限りでは、シュプレズ・ケステと文化刺繍はほぼ一緒です。 
 
シュプレズと呼ばれる針は、上から糸を針の中に通して針の先端に開いている小さな穴から糸を外に出し、あとは布をプスプス刺していくだけであっという間に表面がパイル生地のような状態に仕上がっていくというものです。糸を引き出す時に輪状になって出てくるので、触るとモコモコしています。
 
シュプレズと呼ばれる針
 
シュプレズ・ケステ
 
針に糸を通して布を刺せば誰でも出来てしまう刺繍なので、現代のカザフの若者の間で流行っています。
主に、枕カバーやベッド手前の装飾布、ベッドの足元につける装飾を作るときに用いられます。
ちなみに、モンゴル人の間でも用いられています。


いつ頃からかは定かではありませんが、社会主義が崩壊したあたりの頃からシュプレズ・ケステのような簡単な刺繍技法がカザフ人女性の間で伝わったことで、いわゆるカザフの伝統的な刺繍技法である「かぎ針刺繍」を習得しようという若者が年々少なくなってきたと言われています。
 
なぜなら、かぎ針刺繍は技法自体は単純ですが、その技法を用いて何か作品を作れるようになるまでには、かなりの期間訓練が必要となってくるからです。そんなに時間をかけなくても、簡単に作品を作れてしまう方がいいという理由から、若い女性たちの間ではかぎ針刺繍ではなくシュプレズ・ケステが選ばれているようです。

それでは、最近はほとんどかぎ針刺繍は行われなくなってしまったのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。カザフのおばちゃんたち、がんばってます。
30~50代の女性たちにとっては、やはりかぎ針刺繍こそがカザフの刺繍であり、現在に至るまで最も用いる技法なのです。
 
そこで次回は、今も多くのカザフ女性たちに用いられているカザフの刺繍「ビズ・ケステ」について、ご紹介したいと思います。