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日, 26 7月 2015 02:39

カザフのかぎ針刺繍

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今回はちょっと長文ですよ。
モンゴル国に居住するカザフ民族が用いる代表的な刺繍技法のひとつに、かぎ針による刺繍があります。
かぎ針刺繍のことを、カザフ語で「ビズ・ケステ」と言います。

現在でも30~50代の女性を中心に用いられている技法です。彼女たちはこの技法を使って、トゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を作ります。


この壁掛け布、刺繍部分の大きさは平均タテ120cm×ヨコ180cmほどに至ります。
これだけ大きな面積に刺繍するなんて気が遠くなりそうな作業ですが・・・・・・・

実はカザフ女性たち、この布を早い人で2~3か月で仕上げてしまいます。
驚愕のスピードです!更には、最短1か月って人もいたんですよ!すごすぎる~

さて、どうして彼女たちはこれ程まで速くこの刺繍布を縫い上げることができるのでしょうか?
勿論、カザフ人たちが仕事熱心であるということも一つの理由でしょう。
刺繍・装飾を施すことは、女性の大切な仕事なのです。
加えて、なるべく速く縫い上げなければいけない社会的な事情もあるようなのです。
ですが、その事情についてはまたの機会として・・・

今回はこれだけ速く縫い上げることを可能にしている技術的な理由を、
カザフのかぎ針刺繍の特徴から考えてみたいと思います。


カザフのかぎ針刺繍において、使用される道具は二つ。
一つはかぎ針です。前回も写真を出しましたが、もう一度同じ写真を。




細い鉄の棒、あるいはスプーンの先を落として削ってかぎ針を作ります。
スプーンをやすり使って手で削るのですから、かなり大変な作業です。
かぎ針にするスプーンは、細すぎても適しません。ある程度しっかりした太さのモノが選ばれます。


もう一つの道具は布を張りつけるためのフレームです。
フレームには、たこ糸のような太い糸と、毛糸のとじ針のような太い針を使って、巻き付けていきます。




布に穴があいてしまうんじゃないか・・・・と思われる方もいらっしゃると思いますが、はい、その通りです。布に穴が開きます。どすっと開きます。ですが、その開いた穴を埋め尽くしてしまうほど、後々びっちり刺繍を施していきます。
布を張る際は、最終的に布を指ではじいたときに「ドンドン」と音がなるほどしっかりとテンションがかける必要があります。


フレームは木材あるいは鉄材によって作られます。フレームの大きさはタテ100cm×ヨコ60cmほどです。小さいものであれば、45cm×45cm程度の大きさのものを使う場合もありますが、そういう枠は初心者が使うくらいです。


大きな枠を使う理由は、今現在カザフ人にとってかぎ針刺繍が大きな刺繍壁掛け布を作るための手段であるからでしょう。彼女たちはその枠を抱えて刺繍します。




刺繍する面を真上に向けて縫うのではなく、枠を斜めに抱えて刺繍します。


世界にはインドのアリワークやフランスのリュネヴィル刺繍など、カザフ以外にもかぎ針を用いて行う刺繍が存在しますが、それらは写真などで確認する限り、刺繍する面を真上に向けてかぎ針を上から下へまっすぐ下して縫っています。


しかしながら、カザフのように斜めに立てかけて抱えるようにして縫うことで、両手にある程度の自由がきいて、素早く手を動かすことが可能となります。




ちなみに、他の地域のかぎ針刺繍との相違で言えば、カザフではインドやフランスのかぎ針刺繍ほど細いかぎ針を使用していません。カザフにおいては、ある程度の太さがある先端が鋭いものを使用しているため、スピードをつけて硬めの布地に刺繍しても簡単にかぎ針が折れることはありません。かぎ針の太さや形状は、ウズベク人が刺繍するときに使用するそれと類似しているのではないかなと思います。(実際に見たことがないので、はっきりとは言えませんが。)


こういったフレームの使い方、かぎ針の形・特徴などが、かぎ針刺繍を施すスピードを上げ、あれだけの面積の布に一人で2~3か月程度で縫うことを可能にさせている一つの理由と言えるでしょう。(もちろん、刺繍し続ける体力があることが大前提ですけどね!遊牧民女性の体力は半端じゃないです。)


続けて、刺繍する際の材料についてですが、インドやフランスのかぎ針刺繍ではビーズなどを持ちいて刺繍しますが、カザフではそういう事はしません。材料となるもののは、あくまで布と糸のみ、です。


布はデニム、コーデュロイなどがよく使われています。糸はかつては刺繍糸8番がよく使用されていましたが、現在は中国製の化繊糸を自分たちで撚り直して太くして使用しています。


かぎ針刺繍の技法自体は、単純です。要するに、布を介して鎖編みをしています。ですから、縫い目は縫い針で行うチェーン・ステッチとほぼ同形です。ただ、かぎ針で縫ったほうがやや立体的にみえるようです。




刺して、後ろに出た針に糸を引っかけて、引き抜いて、また刺して・・・その繰り返しです。言ってしまえばそれだけです。こうした単純な動作の繰り返しによって作られるものであるがゆえに、幅2m近くの刺繍布をどんどん縫い上げてしまうのだとも言えます。


ただ単純は、単純、なのですが・・・・・・


その技法を使って、素早く、かつ本当に美しい作品に仕上げるようになるまでには、ひたすら訓練が必要です。この訓練が難しい。縫い目の大きさを一定に揃え、布に必要以上に穴を開けないように注意し、縫い角を正確に処理して整えて・・・。


私も現地で初めて習い始めたころは、それこそ自分が縫った縫い目を見るのが恐ろしくて仕方がありませんでした。同じ動作をしているはずなのに、どうして師匠はあんなに綺麗に縫えるんだろう?どうして師匠はあんなに速く縫えるんだろう?どうしてあんなに大きな枠を持ったまま縫えるんだろう?どうして枠をあっちこっち持ち変えることなく、手首を返すことでひたすら前進して縫い続けられるんだろう?・・・・・・・たくさんの「どうして」を抱えながら、ひたすら横で師匠が縫っているのを眺める日々。そして、横で自分も没頭する日々。いやぁ、これが一度やりだすと、なかなか止まらないものなのです・・・。




現地の人々が縫っている様子を見ていると、布の織目を気にして縫うようなことはしていないようです。ざっくりと、しかし、みっちりと、縫っていきます。まるで、塗り絵のよう。




かぎ針がある程度の太さであることと、スピードをつけて縫うため、布にかぎ針を刺す時は「ドスン、ドスン」とすごい音がします。「刺繍しているとは思えない音だなぁ・・・・・・」とか、「工場制刺繍!?」とかってよく言われますが、それもカザフ刺繍の面白い点だと思っています。「刺繍」の常識を覆すような「刺繍」。細かい作業が苦手だけど、やってみたい・・・という人にもおすすめです。ストレス発散にもなってこれが結構楽しいのです◎


さて、糸の処理は、とっても簡単です。刺して、後ろに出た針に糸を引っかけて、ちょっと長めに引き抜いて、引き出した糸を中心で切って、後ろの糸を引くと、表面には1本だけ糸が残ります。そして再び裏から輪状にした糸を引き出して、その残っている1本を輪の中にいれて、表面に出ている糸に手を触れずに、後ろの糸をひゅっと引くと、あら不思議!残っていた糸が後ろに移動してしまいました。これでおしましです。


ワークショップを開催すると、大抵参加者の皆さんには「え?これだけ?これで解れないんですか?」と聞かれますが、解れません。かぎ針刺繍は解れるから・・・という声も聞こえますが、処理さえきちんと出来れいれば、本当にこれだけで解れないのです。処理が簡単な点も、あまり時間をかけずに次の動作に移ることができるので、やる気を損ねずにどんどん先に進めることができるのかなと、手芸初心者の私なんかは思います・・・。これはあくまで、主観ですけど・・・。




というわけで、カザフのかぎ針刺繍にはいくつかの特徴があり、その特徴が美しくて大きな刺繍壁掛け布を短期間で仕上げることを可能にしているようです。


こんなかぎ針刺繍を実際にやってみたい!という方は、来年2月に大阪でワークショップを開催することが決定しましたので、ぜひご参加ください!
詳細こちらから!また、来年1~3月の間に、福岡・名古屋・東京での開催も予定しています。詳細が決まり次第随時お知らせします。ワークショップ開催のご要望も承ってますので、お気軽にお問い合わせフォームよりお問い合わせください。


って、最後宣伝になってしまいましたが・・・・・。
次回はカザフ人が行う縫い針刺繍の種類について、書いてみようと思います。

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