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水, 29 7月 2015 08:21

カザフの針刺繍

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カザフ女性は、かぎ針刺繍しかしないのか?というと、そういうわけではありません。
カザフ女性は刺繍針を用いた刺繍も行います。今回は、カザフの人々が用いる針による刺繍を種類ごとに書いてみたいと思います。

カザフ語で針のことをイネと言います。かぎ針刺繍が「ビズ(かぎ針)・ケステ(刺繍)」と呼ばれているので、針での刺繍はイネ・ケステ?と思いきや、こちら刺繍針を用いた刺繍全般のことは「コル(手)・ケステ(刺繍)」と呼ばれます。その中でも、縫い方によってそれぞれ名称がつけられています。カザフ人はコル・ケステに含まれる刺繍技法を用いて、主に枕カバーやベッド前のミニカーテンなどを作ります。



写真上:鮮やかな枕カバーなどは、すべて針をもちいた刺繍によって施された
写真下:ベッド手前のミニカーテン(刺繍布)やベッド上のモノ隠し用の布も針刺繍による


以下、縫い方別にご紹介。
ちなみに、(*)で示している縫い方名称は、
マギー・ゴードン/エリー・ヴァンス(2013)『刺繍のすべてがわかるステッチ図鑑』文化出版局
を、参考に記述しました。


★バスパ・ケステ
バスパ・ケステは、一見サテン・ステッチにも見えるのですが、基本線に3~4回糸を巻き付けていることから、コーチング・ステッチの一種だと判断されます。ボハラ・ステッチ(*)と呼ばれるものにも似ていますし、スランテッド・コーチング・ステッチと呼ばれるものにも似ていますが、あまり基本線には傾斜はつけていないようです。


バスパとは「押す」という動詞(バソ)が派生した言葉だと思われます。
この刺繍は、元々はカザフ文様の内側を埋めるために用いられた技法です。


★チュラシ・ケステ
チュラシケステは、一般にオープン・チェーン・ステッチと呼ばれるものに形状が酷似しています。オープン・チェーン・ステッチはチェーン・ステッチの足元を開いて刺す縫い方ですが、このチュラシ・ケステではそのオープン・チェーン・ステッチが二列になるように縫い進めます。
 


チュラシという言葉は、カザフ語で「断崖、崖、縁」と言った意味を持ちます。ものの縁に施すことから、このように名づけられたようです。チュラシ・ケステは、カザフ文様の形に切り取った布を別の布に縫い付けるときにその縁に沿うようにして用いられます。


バスパ・ケステも、チュラシ・ケステも年配の女性が体力的にも、筋力的にも弱ってしまいかぎ針刺繍で用いる大きな枠を抱えられなくなってしまったときに、それでもトゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を作るために、特に用いたと言われています。カザフ女性の刺繍に込める情熱が伝わってくるかのようです。しかし、残念ながら今ではあまり用いられなくなった技法です。バスパ・ケステを使って文様の内側を埋めているような作品は、近年ではほとんど見られなくなりました。


ちなみに、バスパ・ケステとチュラシ・ケステについては、すでに過去に別のところでも書いていましたので、参照URLを載せておきます。留学当時初めて書いた報告書なので、刺繍技術そのものについてもわかってない部分も多いのですが・・・(この当時に書いたバスパ・ケステの記述は間違っているのですが・・・)。あくまでも、ご参考までに。
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AA11256001/2013no.15_131_149.pdf


★コル・ケステ
針刺繍全般の事をコル・ケステと言いますが、その中でもさらに一般的に、サテン・ステッチと呼ばれる技法のことを、コル・ケステと呼んでいます。カザフ人はコル・ケステの技法を用いて、花や幾何学模様を刺繍します。こちらはカザフ人の間にはモンゴル国の社会主義期に入ってきた手法のようです。

 
 写真一番下は、布の裏面。


★クレスト
一般的に、クロス・ステッチと呼ばれる刺繍の一種です。形状としては、リバイアンサン・ステッチ(スミルナ・ステッチ)(*)と呼ばれるものと同じで、斜め2本の×状ではなく、斜め2本の×に加えて真ん中にもう1本ある形です。モンゴル国のカザフ人の間では、1970年代から学校教育に取り入れられ、授業で紹介されました。

トゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を、かぎ針刺繍でではなく、クレストで作る人もたまにいます。これまでの調査において、数百枚のトゥス・キーズを確認しましたが、その中で3~4枚程度発見しました。



写真:クレストで作られたトゥス・キーズ

ちなみに、彼らが刺繍針で刺繍をするとき、日本で用いられているような小さな丸い刺繍枠は使用しません。私が現地で使っていたら、「あら、それ便利ね~」と言われましたけどね。

★テベン・ケステ
もうひとつ、最近流行っている刺繍があります。テベン・ケステと呼ばれるこちらの刺繍。テベンとは「太い針」の意です。太い針に毛糸を通して刺繍します。縫い終わりの形は、クロッスド・コーナー・クッションステッチ(*)という刺繍によく似ているのですが、縫い方が違います。


縫い方はとっても簡単。まず布の上に正方形を書きます。そのうちの一つの角から糸を通した針を出します。下から上へ。今後はその角のななめ向かいの角に刺します。布の上から下へ。次に、その角の横向いの角から針を出します。下から上へ。そして、その角のななめ向かいの角に刺します。上から下へ。最後に、初めの角から糸を出します。下から上へ。あとは、正方形が埋まるまでひたすら同じ順番で刺し続けます。

そうして作った正方形を並べて幾何学模様を刺繍するというものです。簡単なので、カザフの若い子の間で人気です。

以上の5種類が、今現在確認できるモンゴル国のカザフ人の間で用いられる刺繍技法です。
カザフの手芸技法では鏡を使ったり、ビーズを使ったりとか、そういう様子は見られません。
カザフスタンではどうなっているのか、ちょっと気になるところでもあります。
カザフスタンの刺繍事情については、また追々しっかり調べてから書いてみようと思います。

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