コルダスのお家では、2泊3日の滞在期間中、ヒツジを3頭も屠ってくださいました。
そのうちの一回は、我々も見学させていただくことになりました。
このとき屠ったのはトクタと呼ばれる2歳のヒツジでした。
前脚と後脚を縛って動かない状態にして、コーランの一部を読みます。
読み終わったらヒツジの口に手を挟み、そのまま一気に喉をひと突きします。
ブシュっという音とともに、血が一気に出てきます。
頭を落とすために、首を切ります。
たらいにドンドン血が溜まっていきます。
苦しそうにヒツジが声をあげます。
一緒にいた女の子(日本人)の数名は、怖くて見れないと離れてしまいました。
私はウルギーで同じ光景をたくさん見てきたので、怖いという感情はなかったのですが、でもやはり何度見てもいつもこの瞬間はとても複雑な気持ちになります。さっきまでそこで歩いていたヒツジを、人の手によって屠り、その命をいただく。自分ではない別の存在の命を、とても近くに感じる瞬間です。
これまで何度か遊牧生活の中でヒツジを屠る瞬間に立ちあってきましたが、彼らのそばにいると、カザフ人ならカザフ人なりの方法で、モンゴル人ならモンゴル人なりの方法で、このいただいた命を決して粗末にすることなく向き合っているようすがよくわかります。だから、わたしも、屠畜の際は出来るだけ彼らのそばでみて、この命と向き合いたいと思っています。
話は屠畜の様子に戻りますが・・・
血を抜き終わると皮をはぐことなく、すぐに吊るしてしまいました。後脚を上にしてぶらーん。この家では皮はヒツジを吊るした状態のままではいでいました。
しばらくすると、皮はべろーんと剥がされ、地面に置かれました。皮は、塩をたっぷり塗り込まれて、別のところで保管されました。
解体作業は続きます。お腹をきって、内臓部分をばーっと出します。内臓処理は女性の仕事。すぐに女性が来るのかと思いきや、なかなか女性がやってきません。
内臓を出されたヒツジはその後筋にそってどんどんわけられ肉の塊になっていきます。
すると、途中で男性が胸部から何かをとって、壁の高いところに投げつけました。
ん?一体何をしたんだろう?
「これは、シェメルシェックというんだよ。(日本語でいう、軟骨の部分。)これを家畜が増えますようにとか、子供がすくすく育ちますようにとか、そういう願いを込めてこれを高いところに投げつけるんだ。」
こんな習慣があるとは、知らなかったなぁ〜。まだまだ知らないこといっぱいです。
解体中、一緒にいたカザフ人のおじさんに色々お話をお伺いすることができました。
おじさんによると、カザフスタンでのヒツジの値段は、1-2歳であれば約100ドル、3歳以降の成畜であれば約200ドルとのことでした。成畜の値段は、ウルギーのおよそ2倍です。
ここの家のヒツジの頭数は45頭、ヤギは10頭とのことでした。
話をしていると、やっと内臓処理をする女性が出てきました。
解体もほとんど終わった頃だったので、そのまま内臓処理のほうに移って見学させていただきました。
水でバシャバシャと洗っていきます。使っている水の量はウルギーでみてきたそれとは比べものにならないくらい少なかった。でも、反芻胃、腸など丁寧に洗って綺麗にして、無駄なく使用していました。脂を念入りに集める様子が見られなかったのが、ちょっと意外でした。内臓の処理の仕方ひとつでも、ところどころに違いが見られます。その違いを観察することは、その人が何を大事にして行動しているかということに気づくためのきっかけを与えてくれます。
しばらくして内臓処理も終わりました。
台所に戻ると、早速肉が煮込まれていました。
数時間すると美味しそうなお肉が山盛りになって出てきました・・・
と、いうわけで、この日はみんなで美味しいヒツジ肉をたらふくいただきました。