乳製品 (3)
8月も終わり、モンゴルは徐々に秋らしくなってきました。
田舎では草も青々とした緑色から、黄色い秋色へ変わっています。
吹く風もひんやり冷たく、過ごしやすい日々が続いています。
管理人は今ウランバートルにいます。
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わぁ、口いっぱいにほおばって...
おやおや、お姉ちゃんも盗みなめですね。
カザフ語で乳のことをスト(сүт)といい、この言葉でヒツジ、ヤギ、ウシ、ラクダの乳を表すことができますが、ウマの乳だけは、サオマル(саумал)という別の単語が存在しています。カザフ人がウマの乳を重要視してきたことが伺えます。ちなみに、モンゴル国以外のカザフ人は、ウマの生乳を飲まないんだそうです。
ウルギーには、9月中頃に戻る予定です。
自分の留学も残すところ3ヶ月弱。
去年の4月から始まった留学ですが、気がつけば帰国する日がどんどん近づいています。
モンゴルで生活できる今この瞬間を無駄にしないように、
気合い入れ直して見るものしっかり見なくてはと思う今日この頃です。
今回は、カザフ人の馬乳酒作りについて、紹介します。
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モンゴル国のカザフ人は、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ラクダの5畜すべてを搾乳の対象としています。他の地域に居住するカザフ人は、どうやら条件が異なっているらしく、ウシとウマのみ搾乳しているところもあるようです。
ウマの搾乳は、7月初め頃から始まるようです。子馬が産まれてから1ヶ月経過した頃から行われ、8月下旬まで続けられると言われます。
ウマの搾乳は、基本的には男女ペアで行います。男性が子馬を母馬の横につけ、女性が搾乳をするのです。搾乳するときには、ウマにかけ声をかけてやります。かけ声には数通りありますが、「グロウグロウ(гру гру)」と声をかけたり、クチュクチュと口内で音を出してやると、母馬がよく乳を出すと言われています。
搾乳の様子
子馬を近くにつなげておきます
搾乳の様子
子馬を近くにつなげておきます
ウマの乳は、すぐに溜まって流れてしまうので、一日に5~7回搾乳を行わなければなりません。ウマの搾乳を行う家庭は、この時期は朝から大忙し。女性は、ウマの搾乳に加えて、ヒツジやヤギ、ウシも搾乳するのですから、指が痛くなってしまいます。1回の搾乳で、1頭から1リットルほどの乳を得ます。
搾乳したウマの乳は、クムズ(қымыз)と呼ばれる馬乳酒を作るために使われます。馬乳酒は、発酵したウマの乳が入った容器の中に、新しく搾乳してきたウマの生乳を加えて、ひたすら攪拌を続けることで作られます。
3~4時間ほどしっかりと攪拌したあと、別の容器に取り出してそれを洋服などで包み、ストーブの下で暖めます。適温になった頃を見計らって、できあがり。やってきたお客さんに振る舞ったり、自分たちで飲んだり。
ちなみに、年初めには、前年度の馬乳酒の残り、発酵がかなり進んだものに、新しく搾乳して来たウマの生乳を加えて攪拌して作ります。この発酵が進んだものを、コル(қор)といいます。
年初めにウマの搾乳を行った最初の日には、かならず外でご飯を食べます。
食事前。祈りを捧げる。
みんなで集まって、馬乳酒を飲み交わす。 わたしも頂きました。
食事前。祈りを捧げる。
私が居合わせたその日は、たまたま雨が降っていたのですが、それでも外でご飯をいただきました。とてもおめでたい日だから、という理由だそうです。ウマを結んでいたところのすぐ横で、コールダックと呼ばれる炒め麺をいただきました。
馬乳酒ができあがると、今度は宴会が開かれます。カザフの習慣では、馬乳酒を作る家は年初めに馬乳酒ができると親戚や近所の人々を呼んで宴会を開き、馬乳酒を飲み交わします。この行事のことを、カザフ語でクムズ•ムランダック(қымыз мұрындақ)というそうです。
みんなで集まって、馬乳酒を飲み交わす。 わたしも頂きました。
馬乳酒には、薬効があると考えられているため、みんな好んで馬乳酒を飲みます。具体的には、血液の流れをよくしたり、肺臓、腎臓にいいと言われています。ウマの生乳にも、薬効があると考えられています。こちらは、特に肺臓にいいと聞きます。私が4月に体調を壊して咳が止まらなかったとき、会う人みんなに「ウマの生乳を飲め!」と勧められました。ちょっとだけ飲んでみたら、味は甘かったです。子ども達は、搾乳したての乳が入っている桶から泡をすくいとってなめていました。泡が甘くて、おいしいんだとか。
わぁ、口いっぱいにほおばって...
おやおや、お姉ちゃんも盗みなめですね。
カザフ語で乳のことをスト(сүт)といい、この言葉でヒツジ、ヤギ、ウシ、ラクダの乳を表すことができますが、ウマの乳だけは、サオマル(саумал)という別の単語が存在しています。カザフ人がウマの乳を重要視してきたことが伺えます。ちなみに、モンゴル国以外のカザフ人は、ウマの生乳を飲まないんだそうです。
秋になると、馬乳酒を飲む機会は本当に少なくなりますが、冬期でも特別な行事の際に人が集まった場合は振る舞われたりします。その様子からは、彼等が馬乳酒を如何に大切なものと考えているかが見えるようです。
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乳製品
乳製品紹介のつづきです。
前回は、搾乳した乳を加熱して、どのように利用しているのか、ということに触れましたが、今回紹介する乳製品たちも、まずは乳を加熱することから始まります。
⑤エルケット(irket)
⑤エルケット(irket)
前回④で紹介したアクエレムチックは、鍋の表面上に浮いた固形物を取って作られますが、アクエレムチックを作る際に使われずに残った水分は、捨てられることなく、別のものに利用されます。何物も余す事無く利用されるのですね。その水分は、サルスオ(sari suu)と呼ばれます。サルスオとは、直訳すると黄色い水を意味するのですが、なるほど、たしかに、水の色が黄色い。。。
↓鍋の中に入っている水。これがサルスオ。
この黄色い水を、サバと呼ばれる大きな大きな袋の中に入れます。
↓これです。
↓これです。
サバの中に、サルスオ、アイラン、沸騰させた乳を加え、しっかりと口を紐で縛り固定します。
あとは、サバの中を木の棒でがっしがっしかき回します。このかき回す作業、10分や20分なんてもんじゃないのです。サバの大きさにも寄りますが、1時間、いや、2時間は軽くかき混ぜ続けます。最初のうちはいいんですけど、だんだんと腕も手も疲れ果て、手のひらは豆だらけに。。。痛かったぁ。。。
あとは、サバの中を木の棒でがっしがっしかき回します。このかき回す作業、10分や20分なんてもんじゃないのです。サバの大きさにも寄りますが、1時間、いや、2時間は軽くかき混ぜ続けます。最初のうちはいいんですけど、だんだんと腕も手も疲れ果て、手のひらは豆だらけに。。。痛かったぁ。。。
↓サバをかき回す子ども達。
2時間もかきまぜていると、当然中身にも変化が起こってきます。表面上に、脂肪分が浮かび上がってきます。中の温度も、暑くも冷たくもなく適温になった頃を見計らって、サバの中身を全て出します。2時間がっちりかき混ぜられたこの液体、これが、エルケットです。
↓サバから取り出した後。表面に浮かび上がっている脂肪分。
↓脂肪分を取ると、下にはさらっとした液体"エルケット"が。
エルケットは、非常にさらさらした白い液体です。味はたいていとても酸味が強くすっぱいのですが、中には酸味がほどよい非常に飲みやすいものもあります。混ぜ具合次第ってとこですかね。
⑥サルマイ(sari mai)
⑤のエルケットをサバから出すときに表面上に浮いていた脂肪分は、すくわれて別に静置されます。しばらく置いたのち、水気をきりつつ適度にもみます。このとき、適量の塩を加えます。しばらく静置しサルマイの完成です。
↓塩をふってるところ。
サルマイとは、カザフ語で黄色い油を意味しますが、バターより塩気が強く、パンと一緒にぱくぱく食べられます。とっても美味しいです!!!! また、前回②で紹介したカイマック同様、お茶の中に入れて飲まれたりします。
黄色い油と呼ばれますが、羊や山羊の乳で作った場合、黄色くなることはなく、むしろ白い色をした半固体になります。
⑦コルト(kurt)
⑤で紹介したエルケットは、さらに加熱されます。長い時間加熱し続けると、さらさらとした液体だったものが、だんだんとどろどろとした液体になってきます。これが、コルトです。
↓液体コルト。
コルトは、このままでも食されますが、アクエレムチックのように、水分を完全にきり、さらに外干しして完全に固体になるまで乾燥させたりもします。
↓鍋の中の液体コルトを袋にうつし、水気を切る作業中。このあと外干し作業にうつる。
こちらも、ものによりますが、ほどよい酸味があって、美味しいです。かちかちに固くなったコルトよりも、作り立ての少し柔らかいコルトが食べやすくてお勧めです。
と、ここまでいろいろばーーーーーーっと、紹介しましたが、まだ他にもあるのです......。乳製品、きちんとみると、本当に奥が深いです。
乳製品については、また改めて作り方を観察してきてから、その3を書きたいなと思っています。
夏、秋にバヤンウルギーを訪れる方、是非いろんな乳製品を食べてみて下さいね。
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乳製品
前回は、「搾乳」の様子について、ババイ家で見た事を中心にご紹介しましたが、そうやって女性たちの手によって搾られた乳は、どのように使用されているのでしょうか?
乳製品に関しては、私もまだまだ観察途中で、至らない/誤った記述などもあるかもしれませんが、ここ数ヶ月で見たもの、聞いた事を中心に、何回かにわけてご紹介していきたいと思います。
①スト(svt)
乳は、カザフ語で「スト」と呼ばれます。搾ったばかりの乳の中には色んなゴミが混ざっているので、まずはガーゼなどを利用してゴミを取り、乳を綺麗にします。
乳を鍋に入れて、火で暖めます。暖めた乳は、そのまま飲まれます。絞り立ての乳は、とてもまろやかで美味しいです。乳の種類にも寄るのですが、ババイ家で飲んだ羊と山羊を混ぜた乳は、自分が想像していたよりも飲みやすく、少し甘みを感じました。羊は山羊よりも乳の出る量は少ないのですが、羊の乳の方が味が濃くて、美味しいのだそうです。
また、乳はお茶に入れて飲まれます。カザフのお茶は、塩入りミルクティーです。同じ塩入りミルクティーでも、アクシャイと呼ばれるものと、サルシャイと呼ばれるものがあります。また、モンゴル人も、塩入りミルクティーを飲みますが、彼等のお茶とは味が異なります。お茶については、別の機会に、改めてご紹介したいと思います。
②カイマック(kaimak)
夏季は、テーブルの上に必ずといっていいほど乳製品が出されます。よく出される乳製品のひとつに、「カイマック」が挙げられます。沸騰させた乳をしばらく静置すると、乳の表面上に少し固いクリーム状の膜が出てきます。これを、お茶の中に混ぜたり、砂糖と一緒にパンにつけて食べたりします。
③アイラン(airan)
さらに、この時期は、どこの牧民さんの家庭に行っても必ずと言っていいほど出されるものがあります。それは、「アイラン」と呼ばれる酸味が強い半固形物(ヨーグルト)です。アイランには、ビタミンが豊富に含まれているので、みんな好んで食べています。アイランは、乳を加熱しつつ、その中に少量のアイランを加える事によって作られます。
④アクエレムチック(ak irimshik)
カザフの乳製品は、基本的には、乳を加熱することから始まり作られていくのですが、他にどのような乳製品を作る事ができるのでしょうか。今回はもうひとつ、アクエレムチックと呼ばれる食べ物をご紹介したいと思います。
まず、乳を加熱し、そこにお玉一杯分のアイランを加えて更に加熱します。だんだんと表面に固まりが浮いてきたら、鍋を火から放します。
まず、乳を加熱し、そこにお玉一杯分のアイランを加えて更に加熱します。だんだんと表面に固まりが浮いてきたら、鍋を火から放します。
↓アイランを加えているところ
表面の部分に浮いていた固まりをすくって布袋などの中にいれ、水分をしっかり切ります。この作業、湯気が暑くて暑くて袋を握っているだけで大変なのです。。。
↓表面に浮いた固まりをとっているところ。鍋に残っている水も、別のものに利用します。
↓絞る。ぎゅ〜。
布袋は、形を整えてから石などを上に乗せ、しばらく放置しておきます。数時間後、布袋を開けると、アクエレムチックが出来上がっています。
↓食卓に出されたアクエレムチック。見た目はチーズみたいだけど......。
アクエレムチックは、比較的チーズに近いような見た目ですが、食べてみると私たちが普段食しているようなチーズとは異なります。歯ごたえは、チーズよりはしっかりとしています。また、割と酸味が強い乳製品が多い中で、アクエレムチックは、特に強い味があるわけではなく、なんとも表現しにくい食べ物です。。。
乳製品、まだまだまだまだ、あります。 次回は、全く無駄のない、流れるような乳製品作り連続技をご紹介したいと思います。
乳製品、まだまだまだまだ、あります。 次回は、全く無駄のない、流れるような乳製品作り連続技をご紹介したいと思います。
乳製品--その2--に続く!
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乳製品