日, 27 5月 2012 08:52

"オラガンチー"をつくる

前回は”アクチー”と呼ばれる白い筵のことについてご紹介しましたが、今回は"オラガンチー"についてご紹介したいと思います。
 
 
おさらいですが、"オラガンチー"とは、葦一本一本に色のついた毛糸を巻いて文様を浮かび上がらせた筵のことを指します。「オラ ora-」とは、カザフ語の「巻く、巻き付ける」という意味の動詞であり、「チー」は葦のことを指します。
 
 
さて、このオラガンチーの作成の様子、一体どこでみたのかというと、
 
マナイさん(私が泊まっていたところ)
 
のお隣の若旦那(マナイさんと共同で家畜を管理している/奥さんがアクチーを作っていた)
 
親戚のうちです。笑
 
 
近くに住んでたので、試しに遊びにいったら、
あれま、オラガンチー作ってるじゃありませんか!
 
 
なんだかとっても優しそうなおばあさんが住んでいました。
 
 
 
 
同じ”チー”と呼ばれるものでも、アクチーとオラガンチーは、全然違います。今回は、作成途中の様子を拝見させていただきました。なので、見たものを簡単にご説明したいと思います。
 
 
先にも書きましたが、オラガンチーは葦一本一本に色のついた毛糸を巻いて文様を描いていきます。その為、オラガンチーを作るためには、文様の下絵が必要です。
 
 
まずは、床の上に、文様の下絵を描いた布を敷きます。
 
 
 
 
予め、どこの部分はどの色の糸を巻くか決めておきながら、下絵の上に一本葦を置き、どこからどこまでが何色なのか、マーカーで印をつけます。
 
 
 
 
マーキングが終った葦に、丁寧に、隙間無く、くるくると糸を巻き付けていきます。
 
 
 
 
あとは、置いていった葦たちを、毛糸で結びながら固定していきます。(アクチーの時は、石を交差させながら毛糸を編んでいきましたが、オラガンチーの場合は、床において編んでいくので方法が異なるのです。)また、葦が模様の位置からずれないように、上に重いモノを置くなどして固定します。
 
 
さて、そのようにして編んでいったものがどんな風になるかというと?
 
 
ばーーーーーーーん!
 
 
 
 
なんじゃこりゃ!
すーーーーぱーーーーーかっこいいいいいいいいい!!!!
 
 
そしてこれをどんな風に使うかというと.....。
 
 
 
 
こんな風に、置かれるのですねー。
ウイの壁となる木製格子と、フェルトなどの外壁の部分の間に挟みます。
(当HP内の”カザフの装飾文化”にも説明がございます。あわせてご覧下さい。)
 
 
しかし、この作業、本当に気が遠くなるような作業です。一本にくるくる巻き付けていく作業だって、手も目も疲れるし。。。
 
 
夏のウイを美しく飾るオラガンチー。
オラガンチーが、ウイで見れる季節が待ち遠しいです^^
木, 24 5月 2012 06:49

"アクチー"をつくる

 
夏期になるとカザフの人々は、「ウイ」と呼ばれる移動式住居を組み立てて生活します。モンゴルの「ゲル」をご存知の方は多いかもしれませんが、カザフの「ウイ」はぱっと見た感じでは非常にゲルによく似ています。ただ、中に入ると、その構造が異なることがよくわかります。(当HP内の”カザフの住居”もあわせてご覧下さい。)
 
 
カザフのウイはモンゴルのゲルに比べて大きく内部が広いです。その理由のひとつには、「壁」となるジャバラ式の木製の枠組みの枚数がカザフウイの方が多いためであることが挙げられます。
 
 
さて、そんなカザフウイですが、その「壁」となる木製の枠組みと、外壁となるフェルト(および覆い)との間に、葦を編んだ筵(むしろ)のようなものを挟んで全体を囲みます。
 
 
問題はその筵ですが、勿論、日本のようになんでもかんでも出来上がったものを買うということはありません。そうです、自分で葦を編んで作ります。
 
 
この筵、実は2種類あります。
 
 
葦一本一本に色のついた毛糸を巻いて文様を浮かび上がらせた筵のことを、「オラガンチー」といいます。「オラ ora-」とは、カザフ語の「巻く、巻き付ける」という意味の動詞であり、「チー」は葦のことを指します。つまり、糸を巻いた葦という意味になりますね。
 
 
もうひとつは、色付きの毛糸を巻き付けずに、シンプルに葦だけを編んだ筵です。これを、「アクチー」と呼びます。「アク ak」はカザフ語の「白」という意味の名詞であり、白は、「色が無い」ものに対して使われます。
 
 
ラッキーなことに、今回のサグサイ村滞在中に、どちらも作成している様子をみることができました!
 
 
今回は、アクチーの作成方法について、簡単にご紹介したいと思います。
 
 
アクチーを作る為に何を準備したらいいのでしょうか?
 
 
①2種類の毛糸(羊毛糸と駱駝毛糸)
②普通の糸(白)
③葦
④アクチーを編む土台となる木材
⑤ごつごつした石(最低22個)
 
 
こんなもんです。
 
 
って、こんなもんって書きましたけど、まず第一の「毛糸」半端無く面倒くさいです。
実際、アクチーを編み始める前段階での準備に何日もかかっています。
 
 
羊の毛を用意し、その毛を少しずつひっぱりながらほぐし、ウルチク(urshik)と呼ばれる糸巻きに少しずつ巻き付けながら「糸」にしていきます。
 
 
姉さん、マナイ家にお茶のみにきたときも、糸巻き持参で登場。オドロキデス。
 
 
駱駝の毛も同様にくるくる巻いて糸を作り、毛玉が10個用意できたら、さぁいよいよ編む作業にうつります。
おっと、編む前に、葦の周りについている余分な部分を、せっせせっせとむきます。
 
 
 
 
こんなにむいたんですー。でも、これでも全然半分にも満たなかったんですー。
手が痛くなりました。ホントたいへんだった。。。
 
 
さて、葦も準備できたら、いよいよ編みます。まずは、羊と駱駝の毛糸を一緒にだいたい6〜7mくらい引き延ばします。手のひらいっぱいの大きさのをペアで用意し、それぞれに毛糸をまきつけ、天秤みたいなセットをつくります。
  
 
こんな感じ。
 
 


 
石の準備と平行して、葦の準備もします。
最初に編む葦は、2本ずつセットにして、それを普通の糸(今回は白と赤を使った)で大雑把にぐるぐる巻きにして固定します。同様のセットを7本つくります。
 
 
こんな感じ。
 
 
 
さて、全ての準備が整ったら、いよいよこんどこそ編みます。
まず、用意しておいた木製の土台石の組み合わせを乗せていきます。
このセットは最低でも11セット必要です。
 
 
 
 
で、葦を順に乗せていきます。
 
土台に葦を乗せて、毛糸がついた石をひとつずつ葦の上から交差させることで、葦を固定していきます。
 
 
 
 
すべての石を交差させたら、またその上に葦を乗せて、また毛糸つきの石を交差させて葦を固定していきます。
 
この行為を繰り返すことで、毛糸-葦-毛糸-葦-毛糸-葦という風に組合わされ、葦がしっかり固定されていきます。
 
 
勿論、簡単に壊れる事がないように、両端に関しては石を少しずつずらしながらジグザグに編んでいく事で、工夫します。
 
 
こんな感じ
 
 
 
さて、実はこの作業、はじめからビデオ撮影をしていたのですが、いつまで続くのかなーと思ったら、なんと1週間ずっと続けるそうです。そりゃそうですよね、ウイ一件分ですものね。撮影しきれない。。。
 
 
と、いうことで、途中で撮影はやめてしまいましたが、このように地道にこつこつ石を交差させながら、編んでいきます。編んでいるとき、ちょろちょろ様子を見に若い子どもたちがやってきたりしてました。お手伝いしながら、作り方を学んでいくのですね。
 
 
 
 
 
というわけで、以上がアクチーについての作り方でした。えー、筆者の日本語能力の関係で、へたくそな説明でなんだか申し訳ないです。。。いずれ、撮影したビデオについてもまとめてUPできたらいいなと思っています。
 
 
さて、次回は「オラガンチー」について、ご紹介したいと思います。
同じ葦の筵でも、作り方が全く違い、非常に興味深かったです。

 

今日は小学校の頃からの友人と近所の公園でピクニックにいくことになっていました◎
お天気は、あいにくの曇り空、しかも小雨でしたが・・・

 ( ´ ` )
 
それでも今日しか予定空いてないし!と決行することに。
 

実は今日、ピクニックついでに彼女に手伝ってもらって、どうしても挑戦したい事があったのです。
それは・・・


「テェルメ」です‼


テェルメとは、カザフ語で織りのことです。現地にいた時は、牧民さんの家に行く度に練習してたのですが・・・こっちに帰ってからは全然やる暇がなく。ああ、せっかく習ったのに勿体ない!


そこで今日、せっかく時間と場所と人手があるのだから、整経(せいけい: 経糸を整える作業のこと)から現地でやっていたように外でやってみようと思ったのでした。テェルメの整経は一人じゃできないけど、二人ならできる!
 
 
実は、整経はいつも現地の方に手伝ってもらっていたので、一から全部一人でやったことがなかったのです。順番自体はわかるんだけど、さて、うまく出来るかな〜。
 
 
で、早速やってみる。
 
 
 
 
金槌で木の棒をとんとん地面に打ち付ける。
(↑お約束ですが、このあと木の棒ではなく自分の手を金槌で打ち付けました。えへ。)


 
 
三カ所に棒を打ち込んで三角形を作り、その打ち込んだ棒にひっかけながら経糸を整えていきます。
このような整経の仕方を、「輪状整経」と呼ぶそうです。
 
 
友人Mは糸をぐーるぐるぐーるぐる回す役♪
 
 
 
 
三角形の一辺の途中のところで、木の板と棒を地面に打ち込んでそこで綜コウ(コウは糸辺に光: そうこう:緯糸を通す為に経糸を上下に動かす器具のこと )を作ります。私はこちらを担当。
 
 
 
 
うーん、いい感じになってきた!
 
 
途中何をやっているんだ?と公園に来てた人達もこちらの様子を見に来てたり。遊牧民のところで習った織りを実践してます〜というと、「あら。面白そう。あとでまた見に来ますね〜^^」なんて言ってもらってますますやる気UP!!!
 
 
 
経糸を全部まわし、セッティングが無事に終了!あとは、ポール代わりに打ち込んだ木の棒から糸を外して織り機に移すだけ!よっしゃ〜、いい流れじゃ〜〜〜ん♪
 


と、思った次の瞬間。
 
 
 
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
 
 
 
凍り付くアタシ。
(あとでMにきいたところ、顔がおかしなことになっていたらしい。異世界動物的な。)
 
 
 
全て経糸を準備し終わったこの瞬間、ここでようやくやってはいけない大きなミスをやらかしていたことに気がついたのです。ご覧頂きたいのは下の写真。先ほどの写真と同じですが、友人の後ろの部分にご注目
 
 
 
 
 
実は私、木の棒を3本打ち込む際に横着をしまして......
 
 
「お。こんなところに立派な杭がささっているではないか。公共物は有効に使わねば。」
 
 
と思って、木の棒を2本だけ打ち込み、残りの一本は公園の周りの杭を利用したのです。ところが、これ、上の部分に紐がついていて横の杭とばっちり繫がっていたのです。これ、どういうことになるかというと.......
 
 
 
 
ぬ、抜けない!!!!!汗
 
 
糸が上の紐にひっかかってしまって抜けない!やばい!!!!!!!
 
 
 
公共物を引っこ抜こうとも思いましたが、さすがに怒られるのは嫌だと思い、泣く泣く一本ずつ糸を切って結びなおす作業をすることに。あーーーー、なんて時間のムダ。。。
 
 
 
この作業中、先ほど見物に来てくださった方々が戻って来て、この残念さ加減に哀れみの言葉をかけていってくださいました。ちーん。アホすぎる。こんなはずでは.......。
 
 
とにかくひたすら結び変えたのですが、気がついたときには糸は収集がつかないほどぐちゃぐちゃな状態に。あれ、私几帳面なA型のはずでは?あれれ。
 
 
 
 
 
ここで気温が下がり、小雨がひどくなり、トイレにも行きたくなり.......。
というわけで、今回は織りに移る前に泣く泣く作業を断念することに。くやしいー。
 
 
 
 
 
しかし今回、よくわかったことがありました。あ、杭のミス以外でです。
 
 
 
★整経する際、三角形があまり小さくならないように、杭をさす位置をよく考える事。
あまり三角形が小さいと、今度織り機に移した時にうまくテンションがかからなくて失敗しそうでした。
実はこれ、現地で織りを教えてくれた人にも言われていた事でした。「あんまり小さく整経すると織れないのよ」と。あのときはよく意味がわかってなかったけど、自分で一からやってみて、やっと彼女が言ったことを理解する事ができました。


★整経のあと、綾をとるときの紐は、経糸に使った糸とは異なる素材にしたほうが、目立って便利。



まぁ、今回の失敗の決定打は杭でしたがね。
ああ、バカすぎる。外せばいいだけだったのに。
 
 
というわけで、反省点を考慮して、近々またチャレンジします!やるぞ〜!!!!


ちなみに、テェルメのセッティング方法を織り教室の皆さんにお見せしたところ、「整経と、綜コウと、綾を取るのを全部一度にやってしまうなんて、なんて合理的なのかしら〜!」と感想をいただきました。
 
 
ほうほう、そういうものなのか。
 
 
そういえば、先日刺繍を人にレクチャーしたときも「この刺繍、他の刺繍みたいにいちいち糸を切ったり繋げたりせずにひたすら縫い続けられて、すごく無駄がなくて合理的ね〜!」と言われたっけ。
 
 
時間に限りがある遊牧民たちがおこなう手仕事ですから、動きに無駄がないのかもしれないですね。
私も刺繍も織りもドンドン極められたらいいなぁ。練習あるのみ!
 
 
 
日, 19 8月 2012 01:24

テェルメをつくる

気がつけば8月ももう後半に入り、ケステブログもすっかり久しぶりの更新になってしましました。最終更新が約1ヶ月前。。。お休みしすぎました。この間、暫く田舎に行ったり、ウルギーを離れたりと、いろいろと変化があった今日この頃です。

 

さて、今回はカザフの織りの技術「テェルメ」について、書いてみたいと思います。
 
 
↓テェルメによって作られた紐

 
 
実は、このテェルメの作り方、何度か目にしているものの、なかなか理解できず。ですので、まだ説明が至らない部分も多いかと思うのですが、それに関しては今後も追記していきたいと思っています。
 
 
テェルメを作る為に絶対必要なものは、
毛糸とこちらの吊るしです。

 

あとは、
文様を描いていく為の手順を正確に思い浮かばせることができる頭脳。笑
 
 
以下では、2011年にマナイ家で撮影した写真を利用して説明したいと思います。
まず、三本の釘を地面に打ち付け、その釘に糸を順に巻き付けていきます。
 
このときは3色の糸を使いました。赤、ピンク、黄緑の糸です。
まず、赤い糸のみを、ぐるぐると巻き付けます。
この赤い糸は、テェルメの縁の部分になります。
 

その後、ピンクと黄緑の糸を、赤い糸同様にぐるぐると巻き付けていきます。

 
 
三カ所の釘のうち、一カ所だけは釘に木材を寄せておき、黄緑とピンクの糸をここでわけます。

 

糸を巻き付けていく途中で、木材に糸を別の糸でしっかりと固定していきます。
ここでは、白い糸を使用して固定していますね。
ピンクと黄緑の糸を巻き終わったら、最後にもう一度、赤い糸を巻き付けておきます。

 
 
そしてもう一本、木の棒に色の糸を巻き付けて固定し、
一カ所の釘と、木材を地面から引き抜いて、準備完成です。

引き抜いた木材には、予め糸と金属の棒がついていて、今度はこれを吊るして、こんな体制にします。
 
 
準備ができたら、いよいよ織り始めます。
ここまでで準備してきた糸は、「縦糸」となります。
まずは縦糸を、上下にわけ、模様を浮かび上がらせるために何らかの細い棒で縦糸の一部分をすくいとり、上下にしっかりとわけます。わけたら横糸をはさみ入れ、一段一段織っていきます。
 
 
この作業の繰り返しによって、織られていきます。
 
 
 
これは3色の糸で作られていきますが、糸の色がもっと多いとこんな感じ。。。
以下、2012年に撮影した写真を載せてみますと、
 
より太い、より鮮やかな紐がつくられていくわけです。
 
 
すっごい太い紐になると、こんな感じ。。。
幅33cm、長さ11m!!!!!!!!
ウイの上部をぐるっと1周して巻いちゃうくらいの長さです。
きれいだけど、これ作るのにどれくらい時間かかったんだろうと思うと、
すごいとしか言えない。。。
 
 
当たり前のように、大抵の家庭ではこれが手作りされ、使われています。
お店で買うわけではないのですよ。
 
 
ちなみに、テェルメ紐の裏面、横はこんな感じになってます。
<裏>

<横>
 
 
 
尚、テェルメの作り方につきましては、文章だとわかりにくい部分が多いかと思いましたので、動画をyou tubeにUPしてみました。詳しくご覧になりたい方は、下記URLに是非アクセスして見てみてください。動画は慣れて無く、あまりうまく撮れていないのですが。。。

<2011年9月撮影>
<2012年5月撮影>
 
<2012年5月撮影:ショート版>
 
 
 
ううーーーん、もっとじっくり作り方みて、自分でも作ってみたいなぁ、なんて、無謀にもちょっと思ったりして。かっこいいなぁ。

 

 

 

水, 29 7月 2015 08:21

カザフの針刺繍

カザフ女性は、かぎ針刺繍しかしないのか?というと、そういうわけではありません。
カザフ女性は刺繍針を用いた刺繍も行います。今回は、カザフの人々が用いる針による刺繍を種類ごとに書いてみたいと思います。

カザフ語で針のことをイネと言います。かぎ針刺繍が「ビズ(かぎ針)・ケステ(刺繍)」と呼ばれているので、針での刺繍はイネ・ケステ?と思いきや、こちら刺繍針を用いた刺繍全般のことは「コル(手)・ケステ(刺繍)」と呼ばれます。その中でも、縫い方によってそれぞれ名称がつけられています。カザフ人はコル・ケステに含まれる刺繍技法を用いて、主に枕カバーやベッド前のミニカーテンなどを作ります。



写真上:鮮やかな枕カバーなどは、すべて針をもちいた刺繍によって施された
写真下:ベッド手前のミニカーテン(刺繍布)やベッド上のモノ隠し用の布も針刺繍による


以下、縫い方別にご紹介。
ちなみに、(*)で示している縫い方名称は、
マギー・ゴードン/エリー・ヴァンス(2013)『刺繍のすべてがわかるステッチ図鑑』文化出版局
を、参考に記述しました。


★バスパ・ケステ
バスパ・ケステは、一見サテン・ステッチにも見えるのですが、基本線に3~4回糸を巻き付けていることから、コーチング・ステッチの一種だと判断されます。ボハラ・ステッチ(*)と呼ばれるものにも似ていますし、スランテッド・コーチング・ステッチと呼ばれるものにも似ていますが、あまり基本線には傾斜はつけていないようです。


バスパとは「押す」という動詞(バソ)が派生した言葉だと思われます。
この刺繍は、元々はカザフ文様の内側を埋めるために用いられた技法です。


★チュラシ・ケステ
チュラシケステは、一般にオープン・チェーン・ステッチと呼ばれるものに形状が酷似しています。オープン・チェーン・ステッチはチェーン・ステッチの足元を開いて刺す縫い方ですが、このチュラシ・ケステではそのオープン・チェーン・ステッチが二列になるように縫い進めます。
 


チュラシという言葉は、カザフ語で「断崖、崖、縁」と言った意味を持ちます。ものの縁に施すことから、このように名づけられたようです。チュラシ・ケステは、カザフ文様の形に切り取った布を別の布に縫い付けるときにその縁に沿うようにして用いられます。


バスパ・ケステも、チュラシ・ケステも年配の女性が体力的にも、筋力的にも弱ってしまいかぎ針刺繍で用いる大きな枠を抱えられなくなってしまったときに、それでもトゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を作るために、特に用いたと言われています。カザフ女性の刺繍に込める情熱が伝わってくるかのようです。しかし、残念ながら今ではあまり用いられなくなった技法です。バスパ・ケステを使って文様の内側を埋めているような作品は、近年ではほとんど見られなくなりました。


ちなみに、バスパ・ケステとチュラシ・ケステについては、すでに過去に別のところでも書いていましたので、参照URLを載せておきます。留学当時初めて書いた報告書なので、刺繍技術そのものについてもわかってない部分も多いのですが・・・(この当時に書いたバスパ・ケステの記述は間違っているのですが・・・)。あくまでも、ご参考までに。
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AA11256001/2013no.15_131_149.pdf


★コル・ケステ
針刺繍全般の事をコル・ケステと言いますが、その中でもさらに一般的に、サテン・ステッチと呼ばれる技法のことを、コル・ケステと呼んでいます。カザフ人はコル・ケステの技法を用いて、花や幾何学模様を刺繍します。こちらはカザフ人の間にはモンゴル国の社会主義期に入ってきた手法のようです。

 
 写真一番下は、布の裏面。


★クレスト
一般的に、クロス・ステッチと呼ばれる刺繍の一種です。形状としては、リバイアンサン・ステッチ(スミルナ・ステッチ)(*)と呼ばれるものと同じで、斜め2本の×状ではなく、斜め2本の×に加えて真ん中にもう1本ある形です。モンゴル国のカザフ人の間では、1970年代から学校教育に取り入れられ、授業で紹介されました。

トゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を、かぎ針刺繍でではなく、クレストで作る人もたまにいます。これまでの調査において、数百枚のトゥス・キーズを確認しましたが、その中で3~4枚程度発見しました。



写真:クレストで作られたトゥス・キーズ

ちなみに、彼らが刺繍針で刺繍をするとき、日本で用いられているような小さな丸い刺繍枠は使用しません。私が現地で使っていたら、「あら、それ便利ね~」と言われましたけどね。

★テベン・ケステ
もうひとつ、最近流行っている刺繍があります。テベン・ケステと呼ばれるこちらの刺繍。テベンとは「太い針」の意です。太い針に毛糸を通して刺繍します。縫い終わりの形は、クロッスド・コーナー・クッションステッチ(*)という刺繍によく似ているのですが、縫い方が違います。


縫い方はとっても簡単。まず布の上に正方形を書きます。そのうちの一つの角から糸を通した針を出します。下から上へ。今後はその角のななめ向かいの角に刺します。布の上から下へ。次に、その角の横向いの角から針を出します。下から上へ。そして、その角のななめ向かいの角に刺します。上から下へ。最後に、初めの角から糸を出します。下から上へ。あとは、正方形が埋まるまでひたすら同じ順番で刺し続けます。

そうして作った正方形を並べて幾何学模様を刺繍するというものです。簡単なので、カザフの若い子の間で人気です。

以上の5種類が、今現在確認できるモンゴル国のカザフ人の間で用いられる刺繍技法です。
カザフの手芸技法では鏡を使ったり、ビーズを使ったりとか、そういう様子は見られません。
カザフスタンではどうなっているのか、ちょっと気になるところでもあります。
カザフスタンの刺繍事情については、また追々しっかり調べてから書いてみようと思います。
日, 26 7月 2015 02:39

カザフのかぎ針刺繍

今回はちょっと長文ですよ。
モンゴル国に居住するカザフ民族が用いる代表的な刺繍技法のひとつに、かぎ針による刺繍があります。
かぎ針刺繍のことを、カザフ語で「ビズ・ケステ」と言います。

現在でも30~50代の女性を中心に用いられている技法です。彼女たちはこの技法を使って、トゥス・キーズと呼ばれる刺繍壁掛け布を作ります。


この壁掛け布、刺繍部分の大きさは平均タテ120cm×ヨコ180cmほどに至ります。
これだけ大きな面積に刺繍するなんて気が遠くなりそうな作業ですが・・・・・・・

実はカザフ女性たち、この布を早い人で2~3か月で仕上げてしまいます。
驚愕のスピードです!更には、最短1か月って人もいたんですよ!すごすぎる~

さて、どうして彼女たちはこれ程まで速くこの刺繍布を縫い上げることができるのでしょうか?
勿論、カザフ人たちが仕事熱心であるということも一つの理由でしょう。
刺繍・装飾を施すことは、女性の大切な仕事なのです。
加えて、なるべく速く縫い上げなければいけない社会的な事情もあるようなのです。
ですが、その事情についてはまたの機会として・・・

今回はこれだけ速く縫い上げることを可能にしている技術的な理由を、
カザフのかぎ針刺繍の特徴から考えてみたいと思います。


カザフのかぎ針刺繍において、使用される道具は二つ。
一つはかぎ針です。前回も写真を出しましたが、もう一度同じ写真を。




細い鉄の棒、あるいはスプーンの先を落として削ってかぎ針を作ります。
スプーンをやすり使って手で削るのですから、かなり大変な作業です。
かぎ針にするスプーンは、細すぎても適しません。ある程度しっかりした太さのモノが選ばれます。


もう一つの道具は布を張りつけるためのフレームです。
フレームには、たこ糸のような太い糸と、毛糸のとじ針のような太い針を使って、巻き付けていきます。




布に穴があいてしまうんじゃないか・・・・と思われる方もいらっしゃると思いますが、はい、その通りです。布に穴が開きます。どすっと開きます。ですが、その開いた穴を埋め尽くしてしまうほど、後々びっちり刺繍を施していきます。
布を張る際は、最終的に布を指ではじいたときに「ドンドン」と音がなるほどしっかりとテンションがかける必要があります。


フレームは木材あるいは鉄材によって作られます。フレームの大きさはタテ100cm×ヨコ60cmほどです。小さいものであれば、45cm×45cm程度の大きさのものを使う場合もありますが、そういう枠は初心者が使うくらいです。


大きな枠を使う理由は、今現在カザフ人にとってかぎ針刺繍が大きな刺繍壁掛け布を作るための手段であるからでしょう。彼女たちはその枠を抱えて刺繍します。




刺繍する面を真上に向けて縫うのではなく、枠を斜めに抱えて刺繍します。


世界にはインドのアリワークやフランスのリュネヴィル刺繍など、カザフ以外にもかぎ針を用いて行う刺繍が存在しますが、それらは写真などで確認する限り、刺繍する面を真上に向けてかぎ針を上から下へまっすぐ下して縫っています。


しかしながら、カザフのように斜めに立てかけて抱えるようにして縫うことで、両手にある程度の自由がきいて、素早く手を動かすことが可能となります。




ちなみに、他の地域のかぎ針刺繍との相違で言えば、カザフではインドやフランスのかぎ針刺繍ほど細いかぎ針を使用していません。カザフにおいては、ある程度の太さがある先端が鋭いものを使用しているため、スピードをつけて硬めの布地に刺繍しても簡単にかぎ針が折れることはありません。かぎ針の太さや形状は、ウズベク人が刺繍するときに使用するそれと類似しているのではないかなと思います。(実際に見たことがないので、はっきりとは言えませんが。)


こういったフレームの使い方、かぎ針の形・特徴などが、かぎ針刺繍を施すスピードを上げ、あれだけの面積の布に一人で2~3か月程度で縫うことを可能にさせている一つの理由と言えるでしょう。(もちろん、刺繍し続ける体力があることが大前提ですけどね!遊牧民女性の体力は半端じゃないです。)


続けて、刺繍する際の材料についてですが、インドやフランスのかぎ針刺繍ではビーズなどを持ちいて刺繍しますが、カザフではそういう事はしません。材料となるもののは、あくまで布と糸のみ、です。


布はデニム、コーデュロイなどがよく使われています。糸はかつては刺繍糸8番がよく使用されていましたが、現在は中国製の化繊糸を自分たちで撚り直して太くして使用しています。


かぎ針刺繍の技法自体は、単純です。要するに、布を介して鎖編みをしています。ですから、縫い目は縫い針で行うチェーン・ステッチとほぼ同形です。ただ、かぎ針で縫ったほうがやや立体的にみえるようです。




刺して、後ろに出た針に糸を引っかけて、引き抜いて、また刺して・・・その繰り返しです。言ってしまえばそれだけです。こうした単純な動作の繰り返しによって作られるものであるがゆえに、幅2m近くの刺繍布をどんどん縫い上げてしまうのだとも言えます。


ただ単純は、単純、なのですが・・・・・・


その技法を使って、素早く、かつ本当に美しい作品に仕上げるようになるまでには、ひたすら訓練が必要です。この訓練が難しい。縫い目の大きさを一定に揃え、布に必要以上に穴を開けないように注意し、縫い角を正確に処理して整えて・・・。


私も現地で初めて習い始めたころは、それこそ自分が縫った縫い目を見るのが恐ろしくて仕方がありませんでした。同じ動作をしているはずなのに、どうして師匠はあんなに綺麗に縫えるんだろう?どうして師匠はあんなに速く縫えるんだろう?どうしてあんなに大きな枠を持ったまま縫えるんだろう?どうして枠をあっちこっち持ち変えることなく、手首を返すことでひたすら前進して縫い続けられるんだろう?・・・・・・・たくさんの「どうして」を抱えながら、ひたすら横で師匠が縫っているのを眺める日々。そして、横で自分も没頭する日々。いやぁ、これが一度やりだすと、なかなか止まらないものなのです・・・。




現地の人々が縫っている様子を見ていると、布の織目を気にして縫うようなことはしていないようです。ざっくりと、しかし、みっちりと、縫っていきます。まるで、塗り絵のよう。




かぎ針がある程度の太さであることと、スピードをつけて縫うため、布にかぎ針を刺す時は「ドスン、ドスン」とすごい音がします。「刺繍しているとは思えない音だなぁ・・・・・・」とか、「工場制刺繍!?」とかってよく言われますが、それもカザフ刺繍の面白い点だと思っています。「刺繍」の常識を覆すような「刺繍」。細かい作業が苦手だけど、やってみたい・・・という人にもおすすめです。ストレス発散にもなってこれが結構楽しいのです◎


さて、糸の処理は、とっても簡単です。刺して、後ろに出た針に糸を引っかけて、ちょっと長めに引き抜いて、引き出した糸を中心で切って、後ろの糸を引くと、表面には1本だけ糸が残ります。そして再び裏から輪状にした糸を引き出して、その残っている1本を輪の中にいれて、表面に出ている糸に手を触れずに、後ろの糸をひゅっと引くと、あら不思議!残っていた糸が後ろに移動してしまいました。これでおしましです。


ワークショップを開催すると、大抵参加者の皆さんには「え?これだけ?これで解れないんですか?」と聞かれますが、解れません。かぎ針刺繍は解れるから・・・という声も聞こえますが、処理さえきちんと出来れいれば、本当にこれだけで解れないのです。処理が簡単な点も、あまり時間をかけずに次の動作に移ることができるので、やる気を損ねずにどんどん先に進めることができるのかなと、手芸初心者の私なんかは思います・・・。これはあくまで、主観ですけど・・・。




というわけで、カザフのかぎ針刺繍にはいくつかの特徴があり、その特徴が美しくて大きな刺繍壁掛け布を短期間で仕上げることを可能にしているようです。


こんなかぎ針刺繍を実際にやってみたい!という方は、来年2月に大阪でワークショップを開催することが決定しましたので、ぜひご参加ください!
詳細こちらから!また、来年1~3月の間に、福岡・名古屋・東京での開催も予定しています。詳細が決まり次第随時お知らせします。ワークショップ開催のご要望も承ってますので、お気軽にお問い合わせフォームよりお問い合わせください。


って、最後宣伝になってしまいましたが・・・・・。
次回はカザフ人が行う縫い針刺繍の種類について、書いてみようと思います。
木, 23 7月 2015 13:34

3種のケステ

モンゴル国のカザフ人は、住居や衣服など身の回りに装飾を施す習慣があります。彼らがものに装飾を施す際に用いる方法は、「刺繍」、「縫い付け」、「織り」、「編み物」など多様に存在しますが、今回から連続して「刺繍技術」について焦点を当てて書いてみようと思います。
 
尚、ここのblogで書くものはあくまでもモンゴル国のカザフ人が用いる刺繍技法で、後述しますがカザフスタンのカザフ人が行う刺繍とは少し様子が異なっています。モンゴル国の中に居住するカザフ人の間で受け継がれてきた刺繍としてご覧ください。

カザフ語で刺繍のことを「ケステ」と言います。
一言で「ケステ」と言っても、「ケステ」の中にも色々種類が存在します。
まず、用いる針によって大きく3つに大別されます。
 
1つ目は、「ビズ・ケステ」と呼ばれるもの。
ビズとは「かぎ針」という意味で、かぎ針刺繍と訳すことができます。

使用しているかぎ針の先端

かぎ針刺繍を行っている様子。
 
カザフ人が「カザフの伝統的な手芸技法である」と語り、特に住居内部に飾る刺繍壁掛け布”トゥス・キーズ”を作るときなどに使用する技法です。
かぎ針刺繍については、あとでたっぷり後述することにします。


2つ目は、「コル・ケステ」と呼ばれるもの。
コルとは「手」という意味で、手刺繍と訳すことができますが、
一般に刺繍針を用いて行うことをまとめてコル・ケステと言います。
 
コル・ケステ技法によって作られた装飾品
 
コル・ケステは枕カバーやベッド周りの装飾など住居内部の小さな装飾品を作る時に用いられたり、布にアップリケを施す時などに使用します。
昔から使われていた技法と呼ばれているものもあれば、社会主義の影響で学校教育の一貫として人々の間に伝わった刺繍技法もあります。 
コル・ケステについても、今ここで触れるとごちゃごちゃしてしまうので、縫い目ごとに次回以降に後述することにします。

そして3つ目は、「シュプレズ・ケステ」と呼ばれるもの。
シュプレズは・・・元々ロシア語?が訛った言葉なのでしょうか?
「注射」という意味の言葉で、直訳してしまうと注射刺繍となってしまいますが、
あまりにセンスの無い訳仕方ですよね・・・。没!

うーん、日本にこういう刺繍ってあるんだろうか。
恐らく、「文化刺繍」によーく似てると思うんですが、私は文化刺繍をやったことがないので確証がもてないのです。
どなたか「これやったことあるよー!」という方いらっしゃいましたら、どうか教えてください・・・。

追記@2015.07.26
文化刺繍をしている動画を発見しました!
https://www.youtube.com/watch?v=o_GUc18iNIs

これを見る限りでは、シュプレズ・ケステと文化刺繍はほぼ一緒です。 
 
シュプレズと呼ばれる針は、上から糸を針の中に通して針の先端に開いている小さな穴から糸を外に出し、あとは布をプスプス刺していくだけであっという間に表面がパイル生地のような状態に仕上がっていくというものです。糸を引き出す時に輪状になって出てくるので、触るとモコモコしています。
 
シュプレズと呼ばれる針
 
シュプレズ・ケステ
 
針に糸を通して布を刺せば誰でも出来てしまう刺繍なので、現代のカザフの若者の間で流行っています。
主に、枕カバーやベッド手前の装飾布、ベッドの足元につける装飾を作るときに用いられます。
ちなみに、モンゴル人の間でも用いられています。


いつ頃からかは定かではありませんが、社会主義が崩壊したあたりの頃からシュプレズ・ケステのような簡単な刺繍技法がカザフ人女性の間で伝わったことで、いわゆるカザフの伝統的な刺繍技法である「かぎ針刺繍」を習得しようという若者が年々少なくなってきたと言われています。
 
なぜなら、かぎ針刺繍は技法自体は単純ですが、その技法を用いて何か作品を作れるようになるまでには、かなりの期間訓練が必要となってくるからです。そんなに時間をかけなくても、簡単に作品を作れてしまう方がいいという理由から、若い女性たちの間ではかぎ針刺繍ではなくシュプレズ・ケステが選ばれているようです。

それでは、最近はほとんどかぎ針刺繍は行われなくなってしまったのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。カザフのおばちゃんたち、がんばってます。
30~50代の女性たちにとっては、やはりかぎ針刺繍こそがカザフの刺繍であり、現在に至るまで最も用いる技法なのです。
 
そこで次回は、今も多くのカザフ女性たちに用いられているカザフの刺繍「ビズ・ケステ」について、ご紹介したいと思います。

月, 27 4月 2015 23:52

遂に!

 

私事ですが、3月末から私が所属しているNPO法人の事務所がある北海道の京極町というところに引っ越してきました。
 
実家(神奈川)にいたときは毎日なんだかんだと外に出かけていまして、人に会ったりものを見たりして周囲から良い刺激をもらってはいたものの、長時間の電車移動など疲れることも多く、家に帰ると何もせずパタッと寝てしまうことが多かったのですが。こちらに来てからは車以外の手軽な移動手段がないため、いい意味でも悪い意味でも、あまり外に出ない生活をしています。
 
家(事務所)にいると大抵はパソコンと睨めっこしながらお仕事をしているわけですが、夜になると自分の時間が出来るので刺繍布作りを再開しました。

カザフのかぎ針を用いて、去年の5月から刺繍して作り続けています。布の長さは1m50cmほど、幅は40cmほどあります。製作過程はこんな感じ・・・

去年の8月の様子
まだまだ先は長いな~
 
縫ったもののアップ
なかなかびっしり縫い詰めるのは難しい・・・
 
北海道に来てから撮影したもの
あとほんの少しが遠い・・・

 
とはいえ、毎日少しずつ縫い進め、遂に先日完成しました!



この布はある友人に贈ろうと思って作っていました。なかなか刺繍する時間が取れなかったり、忙しかったりして、途中何度も諦めそうになりました。でも、「○○のために縫うんだ」と決めたら、なんとしてでも完成させなければと気合が入るものですね。きっとカザフの女性たちも、自分の家族や子供、大事な人を想いながら、その人のためになんとしてでも完成させたいと、大きな刺繍布を縫ったのではないかなと思いました。たくさんの愛情を込めて。


さて、次は何を作ろうかな。
火, 21 1月 2014 06:48

布巡り中。

 

 
ウルギーでの(私にとっての)最大の楽しみ。それは.......

 
 
刺繍布巡り、です。
 
カザフの刺繍布をトゥス•キーズと言います。
(トゥス•キーズについては、こちらで簡単な説明をしています。)
 
 
同じ文様パターンのものがあっても、
全く同じものはひとつとして存在しない。
作り手それぞれの性格や想いが布に表れていて、
見ているだけでうきうきします。
 
 
”布巡り”とは、つまり
市場などで探して購入したり、
人のお宅にお邪魔してその家で使われている布を見せて頂いたり。
 
 
 

この短い滞在期間の中で、どれだけの布に出会えるか。
行動あるのみ!
 
 
ちなみに、このカザフの刺繍布の展示が、
2月10日〜16日にかけて、
愛知県豊橋市の「いるかビレッジ」内コモンハウスで行われます。
お近くの方、ぜひお越し下さい。
 
 
同施設内部では、2/15と2/16に、「遊牧の民の調べ」コンサートも行われます。
コンサートの詳細は、こちら


 
それにしても、素敵な布たちばかり。
こんな布をつくるカザフの女性に憧れます。わたしもいつか作れたらなぁ。

 
 




木, 26 4月 2012 12:24

ナライハのカザフ人

先日、ウランバートルの中心を離れて、ナライハというところにいってきました。

***

4月にこっちにきて、ビザのことで色々あったときに、
あるアメリカ人女性と出会いました。

彼女はアーティストだそうで、
世界の色んな民族文化からヒントを得ては色んな作品を創っているそうです。

そんな彼女がモンゴルに来た目的は、カザフの伝統的な刺繍をみること!なのです。
私とは、似ても似つかないほどスタイル抜群の美人の彼女ですが(笑)
年齢も滞在目的も同じだったので、すぐ仲良くなったのです。


で、彼女はたまにウランバートルのイフデルグールの近くにある
マリー&マーサ モンゴリアというお店をお手伝いしているのですが、

そのお店では、カザフ刺繍の施された小物が沢山売られています。


実はこのお店、前から少し気になっていたお店でした。
と、いうのも、手縫いとは書かれているのですが、
あまりにも作りがぴしーっとしてたので、
機械で作ったのでは...と、
思っていたからです。

そこで思い切って、
「実際作っているところを見たい!」と言ったら、
「じゃ、ナライハに行こう!」と言われました。
どうやら、その店のカザフ刺繍商品の作り手は
バヤンウルギーとナライハにいるようなのです。



****

と、いうわけで、ウランバートル中心から公共バスに乗っておよそ40分。(片道800tg: 60円くらい)
ナライハにやってきました。(ここも、ウランバートルの一部)

ナライハについてすぐカザフ人の職人さんの家に案内されました。
雪が降った寒い日だったのですが、とても温かく出迎えて頂きました。

 家に入ってすぐ目についたのが、綺麗ないろの絨毯とクッション!

 

これですよ、これ!

部屋のすみでは、18歳の女の子が洋服用にカザフ文様を刺繍していたところでした。

 

ビズと呼ばれる鉤針を用いて行うこの刺繍を、ビズケステといいます。
その18歳の少女の手つきの速いこと速いこと....。

「いつから刺繍はじめたの?」
「10歳くらいから....。」


どうやら、5月20日にナライハで行われる民族衣装コンテストの準備をしていたようです。


******

刺繍をみていたら、そのお家のお母さんがお茶を持ってきてくれました。
テーブルの上には、カザフのミルクティーと、
サルマイと呼ばれるバター、小麦粉、そしてたくさんのキャンディ。 



お茶を飲みながら、お母さんといろいろな話をしました。




彼女(以下、「彼女」とは、この家のお母さんの事)は、
もともとはバヤンウルギー県のトルボ村の出身で、牧民だったそうです。
子どもは全部で9人!かなり子だくさん....。
旦那さんが亡くなった3年前に、
子ども達をウランバートルの学校に入れる為に、ナライハに引っ越してきました。

なぜ、直接ウランバートルの中心部に行かなかったかというと、
それには理由がありました。



ひとつは、大気汚染。
ウランバートルの大気汚染問題はかなり深刻で、汚い空気を吸うよりは、
多少中心部から離れていても、ナライフの方がいいと思ったそうです。

もうひとつは、ナライフにカザフ人が多いということ
社会主義時代、バヤンウルギーから多くのカザフ人がナライフに移住してきました。
彼等は、鉱山開発の仕事をするために、ナライフに来たそうです。
今ナライフには、だいたい600世帯ほどのカザフ家庭が居住しているそうです。
モンゴル人と半々だろうと言ってました。


ナライハにきてから、子ども達が会社を立ち上げ、
2年ほど前にマリー&マーサと契約。

それ以降、注文をうけて作っているそうです。


彼女は、初めて会ったのにも関わらず、私たちに色んな話を聞かせてくれました。
勿論、話しだけではなく、刺繍をしているところも見せていただいたのですが。


******

彼女は、5歳くらいの頃から、刺繍をはじめたそうです。
彼女自身は、18人兄弟(!?)で、一番末っ子だそうです。
物心ついたころには、
もうお母さんや上のおねえさん達が刺繍したりしているのを、みていたそうです。



彼女のお母さんは、とても頭のいい人だったらしく、幼い彼女に
「将来、社会主義が崩壊する頃には、これは絶対にビジネスになるから。
だから、ちゃんと縫えるようにしておきなさい。」

と、言い聞かせていたそうです。


また、彼女が結婚した頃には、「社会主義が崩壊したら、そんなに子どもがいてもしょうがないんだから、
あんまり多くの子どもを産まないように。」

とまで言っていたそうです。
(ただし、彼女は、母親の言った事を無視したそうですが...。)



彼女に多くの助言をした母親は、とても仕事熱心な方だったそうで、
仕事が多い夏の時期でも、時間を見つけては刺繍をしていたそうです。
また、牧民達は、羊や山羊が狼に食べられないように、見張りにいくのですが、
彼女の家の女性たちは、そのときも、持っていける布と針と糸をもって、
外でも刺繍していたそうです。す、すごい....!


それだけ沢山の刺繍をして、沢山のものを残したのなら、
今、彼女の母親が作ったものがひとつくらい残っているかも!!!
と、思い聞いてみると、自分の手元に残していたものは
子どもたちにあげてしまったそうです。
そして、子ども達はというと、どうもそれを売ってしまったようで....。
ただ、手元に一点だけ、洋服が残っているということだったので、
今度きたときに、みせてもらうことにしました。



ちなみに、「当時は、どんな色の糸を使っていたのですか?」と質問すると、
なぜか、ふふふふっと笑って、
「赤と、白と、黒と、それから黄色。黄色は、駱駝の毛の色ね!
と、説明してくれました。


そのあとも、彼女はいろいろな話をしてくれました。
特に印象的だったのが、
彼女が子ども達の将来を非常に重要視しているということでした。

それは、子どもをもつ親なら当然のことなのかもしれませんが、
子どもを海外に送り出そうと考えていることが非常によく伝わってきました。


彼女の9人の子ども達のうち、
2人はトルコに、1人はドイツに留学をしたことがあるそうです。

「どうやってそんなお金稼いだの?」と聞いてみると、
「羊を200匹売ったのよ!!!」 と言ってました。


今度、息子の一人をアメリカに留学させたいらしく、

そのための資金を稼ぐ為に、がんばらなくては!と張り切っていました。


 とってもパワフルで元気な彼女は、私を家に泊めようとしてくれたのですが、
ここで最悪な事態が発生....。
どうも朝から気分が優れないなぁと思っていたら、遂に発熱してしまったようで、
帰らざるをえなくなりました。最低....。 


本当は、もっといろんな話をしたかったけど、
また遊びにきますね!と、約束をして帰る事にしました。


 *******

さて、明日からいよいよウルギー生活がはじまります。
カザフの人達と一緒に生活することで、
少しでも彼等が何をみて、どんなことを考えているのか、
みれたらいいなぁと思います。


いってきまーす !


最後の写真は、カザフ女性の衣装ケンピル。
50歳以上の女性が着る服らしいです。

 



 

 

 


 



 

 

 


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